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【東京】築地市場までの距離は電車で20分くらいだが、東京で小さな料理店を営む間々下友洋さんは築地で魚を仕入れない。タブレット型端末「iPad(アイパッド)」で仕入れるのだ。
数百年続く日本の漁業に小さな革命をもたらした間々下さんの選択は注目に値する。
日本は世界有数の魚介類消費国で、味へのこだわりは折り紙付きだ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが発表した最近の調査によると、米国人が日本と聞いてまず思い浮かぶ言葉は「すし」だという。
技術先進国として名高い日本だが、水産業界は1世紀前とほとんど変わっていない。何層にも重なった卸売りや小売業者が毎日、築地などの市場から大量の水産物を動かしている。このシステムは数十年続く取引関係、電話、ファクスに頼っている。取引にインターネットが入り込む余地はほとんどないのだ。
日本では魚料理がファストフードや肉料理に押され気味で、漁業が活気と収益性を維持するには21世紀の処方箋が必要だと指摘する起業家もいる。
伝統に固執しているのは漁業だけではない。日本生産性本部によると、卸売りと小売業界の労働生産性は2012年までの10年間に1.3%低下。米国では同じ期間に11%上昇している。安倍晋三首相はこれについて、日本の足を引っ張っている根本的問題の一つだと強調している。
間々下さんにiPadで商品を供給する八面六臂(はちめんろっぴ)の松田雅也社長(35)は「水産とか、飲食店の世界だとパソコンが必ずしも普及するわけじゃなかった。船とかでパソコンはやっていられない。料理人はパソコンを出したくない。人前で見られたくない」と述べた上で、「インターネットのメリットや強みを享受できなかったのは、この業界だ」と語った。
スーパーの多くは、すでに旧態依然とした卸売市場を飛び越し、大手流通業者から直接商品を仕入れている。政府統計によると、スーパーや大手小売店は仲介業者を極力減らして鮮魚を安く仕入れたがるため、卸売市場を通じた魚介類の購入量は全体の約半分まで落ち込んだという。20年前は全体の75%ほどが卸売市場を通過していた。
大手チェーンとは異なり、小規模な料理店は自ら直接買い付けには動きたがらない。漁業共同体の中には、規模が小さすぎて都市部の消費者に商品を提供できないところもある。
松田氏はここに目を付けた。同氏が経営する八面六臂は、その日に上がった水産物をリスト表示するiPadのアプリを展開。このアプリを事前にダウンロードした小売店が注文画面をタップすると、翌日の築地入荷相場情報が表示される。注文は魚1匹、あるいは一切れからでも受け付ける。八面六臂の株主にはリクルートホールディングスやディー・エヌ・エーなど大手企業が含まれている。
元銀行員だった松田氏は2011年に八面六臂を創業。八面六臂とは8つの顔と6本の腕を持つ仏像のことで、一人で何人分もの活躍をすることを意味する。創業時の顧客数は約300店だったが、現在は1700店に拡大。18年には1万店を目指している。また、同社は野菜の取り扱いも開始し、将来的には肉類や酒にも手を広げる可能性がある。
八面六臂は物流網のあらゆる段階の卸業者から商品を仕入れ、何層もの仲介業者を飛び越すことも多い。松田氏は「一番安い価格で買えるところで買っている」と話す。同社の試算によると、旧来の卸売りプロセスを通せばコストは約50%上昇するという。
卸売業者の間では、市場へのアクセスの仕方で八面六臂が革新的なのはiPadを使うことだけだとの声もある。同社は依然として卸売業者からも水産物を買っており、価格面で必ず競合を打ち負かすわけでもない。料理店は一律500円の配送料を負担しなければならないのだ。
同社の役割は小さな料理店が時間を節約し、見つけるのが困難な商品を含む数多くの水産物へのアクセスを提供することだと、松田氏は指摘する。
間々下さんは「僕も使ったことのない魚を買ってみて、インターネットでさばき方の動画を見ながら、自分でやってみたりする」とし、「日替わりで珍しい魚を一種類でも入れておけば、今日はこれをちょっと食べてみる、ということで喜んでくれるお客さんがたくさんいる」と述べた。
日本には個人経営の料理店が約100万店あるが、その多くは築地などで鮮魚を仕入れる労力を持たない。八面六臂は東京周辺のこうした店舗をターゲットにしている。
同社の従業員は電話や無料通信アプリ「LINE(ライン)」などで漁業組合や卸業者と密接に連絡を取り、水揚げ情報を仕入れる。ある店舗が具体的なある魚を求めていると営業担当者が聞けば、同社はそれを見つけ出そうとする。
運営の中枢部となるのは24時間開いている取引ルームだ。従業員は入ってくる注文と価格を監視し、最高の価格を見つけ出すために天候や海の様子を8つのスクリーンで分析する。
松田氏は「簡単に言うと、うちの会社は大きな通訳者だ」とし、「情報を全部集めて、お店とか卸売業者のために通訳する」と述べた。
現状の物流システムを擁護する人もあり、これらの人々は手軽さが常に品質の良さにつながるわけではないと主張する。築地市場に事務所を構える東京魚商業協同組合の専田正雄事務局長は「お客様に進めるにあたっては自分の目で見る必要がある」と指摘。「うちは魚屋の組合なので、やっぱりそれが一つのみなさんのステータスであり、みなさんの誇り、他のスーパーとか百貨店と量販店との違いだ」と述べた。
専田さんによると、組合の会員は主に電話やファクスで取引をするが、組合自体は活動報告などでインターネットを積極的に使っている。
黒川友一さんは東京湾に面する小さな漁業の町で卸売業を営んでいる。同氏は1年前に八面六臂と組み、ようやく東京市場に入り込むことができたという。それ以前、黒川さんが仕入れた水産物の大半は地元の小売店に供給されていた。
同じ町に住む漁師の金木幸一さんによると、東京のすし店からの旺盛な需要のおかげで、1キログラム500円の鮮魚の価格が今は2倍にもなるという。
八面六臂の顧客が注文した全ての水産物は、毎朝6時ちょっと過ぎから築地で仕入れられ、そこから数分ほどにある冷凍庫に入れられる。ジャンパーにスウェットパンツ、長靴を履いた10人ほどのチームがそれぞれの注文品を氷の入った発泡スチロールの箱に詰め、トラックに荷積みする。そして、午前8時前には注文の品が発送される。
By ELEANOR WARNOCK
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